第四章 仮想法廷四 名誉毀損事件

概要 

 京都において木曽義仲軍が乱暴狼藉をはたらいたという通説(俗説)は平家物

語の捏造(ねつぞう)であり誤りである。さらに大げさに描写した小説家などを

名誉棄損で訴えるものである。

 (注:このなかの証人及び証言は筆者の推定(独断と偏見)です)
「名誉毀損事件」

一  開廷 検察官論告

被告 平家物語編集者
被告 琵琶法師
被告 九条兼実「玉葉」著者
被告 小説家Y「新平家物語」作者
被告 小説家M「平家物語」作者
被告 小説家T「平家物語」作者
被告 小説家K「木曽義仲」作者
被告 小説家S「木曽義仲」作者
被告 平家物語解説者A
被告 歴史研究者B
被告 歴史解説者C

告訴人 木曽義仲
告訴人 木曽義仲家臣
告訴人 木曽義仲子孫
告訴人 木曽義仲家臣子孫
告訴人 信濃国住人(長野県民)

証人 平家物語原作者
証人 慈円「愚管抄」著者
証人 藤原経房「吉記」著者 
証人 小説家O「木曽義仲」作者
証人 平家物語解説者D
証人 歴史研究者E
証人 歴史解説者F

 

 

裁判長 「ただいまより、寿永二年八月からの義仲軍の名誉棄損事件の審理を

     開始する。 検察官は罪名と罰条を述べて下さい」

 

検察官「木曽義仲および木曽義仲軍が京都において乱暴狼藉をはたらいたと

    いうのは平家物語の 捏造であり、後世の解説者、小説家、歴史研

    究者は事実と誤解し、木曽義仲及び木曽 義仲家臣とその子孫及び

    信濃国住民・長野県民の名誉を棄損した」

      罪名、名誉棄損」
     罰条、禁錮三年」

 

裁判長 「被告人は、罪名を認めますか」
被告全員「認めない。平家物語はほぼ史実に基ずいており、九条兼実の「玉

葉」にも記述 があり、木曽義仲軍の乱暴狼藉はほぼ事実である」

 

二  平家物語作者等の証言

 

検察官 「証人、平家物語原作者に質問します。木曽義仲軍の乱暴狼藉は事実

   ですか」
証人(平家物語原作者)「なるべく事実に忠実に書いたつもりです。乱暴狼藉

    の真犯人は 元平家軍将兵で後の鎌倉軍将兵、僧兵、一般市民である

  。しかし、後日、琵琶 法師や編集者が朝庭や鎌倉の頼朝に迫害されない

   ように変更したようです。また 鎌倉政権の乱暴狼藉を義仲軍に

    置き換えて非難しているようです」

 

検察官 「被告 平家物語編集者に質問します。原作を改編しましたか」
被告 (平家物語編集者)「勿論です。原作どおりでは面白くないし、また権

   力者の朝廷や 鎌倉の批判、悪口なども書けません。乱暴狼藉の真犯

     人は元平家軍将兵で後の 鎌倉軍将兵、僧兵、一般市民である。後

   承久の変における乱暴狼藉を全て義仲 軍に置き換えました」

 

検察官 「被告 琵琶法師に質問します。原作を改編しましたか」
被告 (琵琶法師)「勿論です。原作どおりでは面白くない。乱暴狼藉の真犯

    人は元平家軍 将兵で後の鎌倉軍将兵、僧兵、一般市民である。しかし

    一般市民が聴衆ですから 真実は語れません。また権力者の朝廷や鎌倉

    政権の批判、悪口なども語れません。 後の承久の変における乱暴狼藉

    を全て義仲軍に置き換えました」

 

検察官 「被告 九条兼実に質問します。木曽義仲軍の乱暴狼藉は事実ですか」
被告 (九条兼実)「私は肩書きは右大臣です。しかし法皇やその近臣や清盛

    平家と意見 が合わず権力中枢から外されていたので、正式な情報が入

    りません。やむを得ず 伝聞を集めていました。また病弱でしたので実

    際には見ていないが、信用出来る ある人の情報を得たので、多分、乱

    暴狼藉は事実だと思います」

 

検察官 「被告 九条兼実に質問します。そのある人とは誰ですか」
被告 (九条兼実)「それは秘密です」

 

検察官 「証人、慈円に質問します。木曽義仲軍の乱暴狼藉は事実ですか」
証人(慈円)「木曽義仲軍の乱暴狼藉は事実では無い。「愚管抄」にも記述し

    ていな い。乱暴狼藉の真犯人は物盗りなど一般市民である」

 

検察官 「証人、藤原経房に質問します。木曽義仲軍の乱暴狼藉は事実ですか」
証人(藤原経房「)「木曽義仲軍の乱暴狼藉は事実では無い。「吉記」にも記

    述していない。私が直接見た乱暴狼藉の真犯人は僧兵や物盗りなど一

    般市民である。 僧兵や物盗りなど一般市民の乱暴狼藉の取締りを義仲

    軍に命令しました」

 

検察官 「被告 歴史研究者A、歴史解説者B、平家物語解説者Cに質問します。

    木曽義仲軍の乱暴狼藉は事実ですか」
被告 (歴史研究者A)「当時の右大臣九条兼実の日記「玉葉」に詳細に記述さ

    れており、 多分事実です」
被告 (歴史解説者B)「「玉葉」に詳細に記述されており、多分事実です」
被告 (平家物語解説者C)「「玉葉」に詳細に記述されており、多分事実です」

 

弁護人 「被告 歴史研究者A、歴史解説者B、平家物語解説者Cにに質問し

    ます。その「 玉葉」の記述はある人の噂話だと気づいていましたか」
被告 (歴史研究者A)「いいえ、気づきませんでした。兼実が直接見た、また

    は右大臣です から正確な情報が伝えられたと誤解していました」
被告 (歴史解説者B)「同じく誤解していました」
被告 (平家物語解説者C)「同じく誤解していました」

 

矢垂石(長野県野沢温泉村) 今井兼平の矢が当たったという。
矢垂石(長野県野沢温泉村) 今井兼平の矢が当たったという。
金刺盛澄像(長野県下諏訪町) 金刺盛澄は手塚光盛の兄で弓の名手。
金刺盛澄像(長野県下諏訪町) 金刺盛澄は手塚光盛の兄で弓の名手。

弁護人 「証人 歴史研究者D、歴史解説者E、平家物語解説者Fに質問します。

  その「玉葉」の記述はある人の噂話だと気づいていましたか」
証人 (歴史研究者D)「はい、気づいていました。木曽義仲軍の乱暴狼藉は

  事実とは思えません」
証人 (歴史解説者E)「同じく、気づいていました。木曽義仲軍の乱暴狼藉

  は事実とは思えません」
証人 (平家物語解説者F)「同じく、気づいていました。木曽義仲軍の乱暴

  狼藉は事実とは思えません」

 

検察官 「被告 小説家Mに質問します。木曽義仲軍の乱暴狼藉は事実ですか」
被告 (小説家M)「当時の右大臣九条兼実の日記「玉葉」にも詳細に記述さ

  れており、多分事実です。平家物語には平家軍の乱暴狼藉も書きました。

  小説ですから想像を加え大げさに書きました」

検察官 「被告 小説家Kに質問します。木曽義仲軍の乱暴狼藉は事実ですか」
被告 (小説家K)「当時の右大臣九条兼実の日記「玉葉」にも詳細に記述さ

  れており、多分事実です。小説ですから平家物語に私なりの歴史観による

  想像を加え大げさに書きました」

検察官 「被告 小説家Tに質問します。木曽義仲軍の乱暴狼藉は事実ですか」
被告 (小説家T)「当時の右大臣九条兼実の日記「玉葉」にも詳細に記述さ

  れており、多分事実です。諏訪の御柱祭りを見て長野県民すなわち木曽

  義仲軍は乱暴者が揃っていると思いました。小説ですから私の中国での

  乱暴された体験と想像を加え平家物語に木曽義仲軍は山男の荒くれ者と

  大げさに書きました。」

検察官 「被告 小説家Sに質問します。木曽義仲軍の乱暴狼藉は事実ですか」
被告 (小説家S)「当時の右大臣九条兼実の日記「玉葉」にも詳細に記述さ

  れており、多分事実です。私は太平洋戦争に士官として従軍し、さらに

  友人の話しを聞いて多分木曽義仲軍も同様の乱暴狼藉を働いたと思いま

  した。小説ですから私の中国での体験と想像を加え平家物語に大げさに

  書きました。」

弁護人 「被告 小説家M、小説家K、小説家T、小説家Sに質問します。その

  「玉葉」の記述はある人の噂話だと気づいていましたか」
被告 (小説家M)「いいえ、気づきませんでした。兼実が直接見た、また

  は右大臣ですから正確な情報が伝えられたと誤解していました」
被告 (小説家K)「同じく誤解していました」
被告 (小説家T)「同じく誤解していました」
被告 (小説家S)「同じく誤解していました」

弁護人 「証人 小説家Oに質問します。その「玉葉」の記述はある人の噂話

  だと気づいていましたか」
証人 (小説家O)「はい、気づいていました。ある人言うとなっているので

  兼実は直接見ていない。また肩書は右大臣ですが、正確な情報が伝えら

  れていないと思いました」

 

三 判決

裁判長 「判決を言い渡す。

     被告人は全員、禁錮一年、ただしその執行を三年間猶予する。

  理由、平家物語などによる木曽義仲軍の乱暴狼藉は事実ではなく捏造(

  ねつぞう、作り話)である。
   乱暴狼藉の真犯人は元平家軍将兵で後の鎌倉軍将兵、僧兵、一般市民

  である。
   琵琶法師は一般市民を前に真実を語る事は出来ない。平家物語編集者

  も鎌倉軍将兵の批判は出来ない。    
   九条兼実の記述も単なる噂話を記述したもので正確な情報では無い。
  後世の解説者、小説家、研究者は平家物語の捏造と玉葉の誤解をもとに

  大げさに表現したものである
   執行を猶予する理由は、九条兼実はある人の情報を正しいと誤解した

  ものである事、他の被告はほとんど九条兼実の誤解した情報をうのみに

  した誤解によるものである事を考慮した。
                      以上」


あとがき

 木曽義仲はまぎれもなく英雄である。しかし世間には木曽義仲は乱暴者、

暴れん坊将軍、逆賊(ぎゃくぞく)とする通説(俗説)がはびこっている。

 これは平家物語やその解説書および現代の小説家により捏造(ねつぞう、

作り話)された小説などの影響が大きいが、その他に京都の公家の日記「

玉葉」の誤解の影響も大きいようである。
 最近「義仲と巴」をNHKの大河ドラマにという運動が起きているが、NHK

のドラマ関係者などの義仲は乱暴者というイメージを取り除かない限り困

難だろう。「義経」などを主人公とするドラマに脇役として義仲が登場す

る場面でも乱暴狼藉が大げさに表現されているから逆効果となる。
 本書はやや厳密さを欠くが、わかりやすさを基本とし、筆者の推定(独断

と偏見)を加えた裁判形式の読み物である。
 厳密には平家物語以外の史料を分析して、木曽義仲の京都での乱暴狼藉(

らんぼうろうぜき)説は捏造(ねつぞう、作り話)であると判断し、「史学義

仲」に論文として発表した。
 しかし会員の一部から二度も繰り返し読んだが良くわからないという話を

聞いた。そこで、その解説書を「朝日将軍木曽義仲洛中日記」として出版し

た。しかし厳密さを強調するため引用文を多めにしたので初心者にはやや難

しいようである。しかし、ぜひ「朝日将軍木曽義仲洛中日記」や「史学義仲

」も読んでいただきたいものである。

 

参照
一、史学義仲第八・九・十号          木曽義仲史学会
二、朝日将軍木曽義仲洛中日記  オフィスアングル


 

樋口次郎の墓(長野県辰野町) 樋口次郎の墓という。
樋口次郎の墓(長野県辰野町) 樋口次郎の墓という。
荒神宮参上神社(長野県上田市) 今井兼平の碑がある。
荒神宮参上神社(長野県上田市) 今井兼平の碑がある。
巴山吹の五輪塔(長野県上田市) 巴と山吹の供養塔という。
巴山吹の五輪塔(長野県上田市) 巴と山吹の供養塔という。